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相 続

【相続】古い実家は解体すべき? 売却方法の選択肢と税金への影響について

はじめに:相続した実家を「負動産」にしないために

ご実家を相続された際、その建物が築年数の古いものであると、「このまま売れるのだろうか?」「いっそ解体した方が高く売れるのだろうか?」という大きな悩みに直面します。

解体には多額の費用がかかる一方で、相続物件をそのままにしておくと固定資産税や維持管理費の負担や、売却する際の売却期間の長期化といったリスクがあります。この判断を誤ると、数百万円単位で手取り額が変動し、せっかくの資産が「負動産」へと変わりかねません。

このコラムでは、相続物件の売却を検討している売主様向けに、「古家付き売却」と「更地売却」の二つの選択肢について、特に固定資産税と譲渡所得税という税金への影響に焦点を当て、専門家の視点から徹底的に比較解説します。

選択肢の比較:古家付き売却 vs 更地売却

相続不動産の売却における基本的な選択肢は以下の二つです。

項目 古家付きで売却
(現況引き渡し)
建物を解体して売却
(更地引き渡し)
初期費用 安い
(解体費用がかからない)
高い
(解体費用がかかる)
固定資産税 安い
(住宅用地特例が適用される)
高い
(特例が解除され、税額が上がる)
売却期間 長期化しやすい傾向がある 短縮しやすい傾向がある
ターゲット 買取再販業者、建売業者、DIY層、一部の投資家層 新築を建てたい一般実需層、建売業者、投資物件のデベロッパー

選択肢①:古家付きで売却する「現況引き渡し」の真実

建物をそのまま残し、「古家付き土地」として売買する方法です。

古家付き売却のメリット(費用と税制優遇)

▼ 最大のメリット:解体費用の先行出費がない
解体費用は建物の構造や大きさによって大きく違いますが、木造家屋の場合一般的に150万円~300万円程度かかります。この費用を売却前に手持ち資金から出す必要がない点は、大きなメリットです。

▼ 固定資産税の優遇が継続する
住宅用地特例が適用され、土地の固定資産税が軽減された状態を維持できます。(詳細は後述)

▼ 契約不適合責任を限定しやすい
買主も古い物件であることを承知で購入するため、売主の「契約不適合責任」(隠れた瑕疵に対する責任)を免責とする、あるいは期間を短く限定する特約をつけやすい傾向があります。

古家付き売却のデメリットと注意点

▼ 売却価格が下がりやすい
買主は、購入後に自身が負担する解体費用や産業廃棄物処理費用を考慮し、その分を差し引いた価格でしか購入しません。結果的に、更地よりも価格が安くなる傾向があります。

▼ 内覧時の印象が悪く、売却が長期化しやすい
建物が古い、あるいは残置物が多いと、内覧時の印象が悪くなり、買主の決断が鈍ります。売却が長引くほど、市場での物件評価は下がります。

▼ 契約不適合責任のリスク
建物の「契約不適合責任」を免責とした場合は別として、免責期間を限定する特約を付けたとしても、雨漏りやシロアリなどの隠れた重大な瑕疵が売却後に発覚した場合、トラブルに発展するリスクは残ります。

選択肢②:建物を解体して売却する「更地引き渡し」の真実

建物を撤去し、土地のみを売買する方法です。

更地売却のメリット(価格とトラブル回避)

▼ 購入層が最大化し、売却期間が短くなる
買主は「新築用地を探している一般実需層」に広がり、購入意欲の高い層をターゲットにできるため、古家付きより短期間で売却できる可能性が高まります。

▼ 価格の妥当性が増し、高値売却の可能性
買主は純粋な「土地相場」で物件を比較できるため、周辺の土地相場に沿った価格で売却しやすくなります。

▼ 建物に関する売却後のトラブル不安解消
建物がなくなるため、建物の状態に関する契約不適合責任から完全に解放され、売却後の心理的な負担が少なくなります。

更地売却のデメリットと最大の注意点

▼ 解体費用の先行出費
まず、売主が解体費用を捻出し、先行投資する必要があります。売却が長引いた場合、資金繰りが苦しくなる可能性があります。

▼ 最大のデメリット:固定資産税の激増
これが更地にする最大のネックです。(詳細は次章で解説)

▼ 地中埋設物のリスク
地中から古い井戸や基礎のガラ、浄化槽などの「地中埋設物」が発見された場合、追加の撤去費用が売主に発生するリスクがあります。解体業者との契約時に、埋設物の扱いについて明確にしておく必要があります。

【最重要】売却方法が固定資産税に与える致命的な影響

建物を解体して更地にするか否かを判断する際、最も注意すべきは固定資産税の「住宅用地特例」の解除です。

住宅用地特例とは?

日本の固定資産税には、「住宅が建っている土地(住宅用地)」の税負担を軽減するための特例があります。

  • 軽減内容:住宅の敷地になっている土地は、固定資産税が最大1/6に軽減されています。(200㎡以下の部分は1/6、200㎡を超える部分は1/3に軽減)

《出典》 地方税法に基づく固定資産税制度(出典A)

解体後の固定資産税はどうなるか?

建物を取り壊し「更地」にした場合、この特例は適用外となり、翌年の1月1日時点で更地であれば、その年の固定資産税は最大6倍に跳ね上がります。

  • 対策:売却期間が長引いた場合、数十万円から数百万円単位で税負担が増加します。更地にする場合は、「固定資産税の課税時期(1月1日)」を跨がないよう、買主との引き渡し(決済)時期を年末ギリギリまたは年明けすぐなど、綿密に調整する必要があります。

譲渡所得税を左右する「空き家特例」(3,000万円控除)の要件

相続物件の売却で最も重要な節税策が「被相続人の居住用財産を売った場合の3,000万円特別控除」(空き家特例)です。この特例は、建物付きでも更地でも適用可能ですが、非常に厳しい要件があります。

※相続人の数が3人以上である場合は2,000万円までとなります。

特例の対象となる「建物」の主な要件

  • 単独居住:亡くなった方(被相続人)が一人暮らしをしていた物件であること。(賃貸や事業用に使われていなかったこと)
  • 耐震性:昭和56年(1981年)5月31日以前に建築されたもので、現行の耐震基準を満たすこと。(もしくは建物を解体撤去して土地だけで売却すること。)
  • 区分所有建物登記がされている建物でないこと(マンションは対象外)
  • 用途: 相続してから売却するまで、相続人が住んだり、事業用や貸付用に使われていないこと。

特例適用の「期限」と「売却」の主な要件

  • 期限:相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却を完了すること。(売買契約ベース)
  • 価格:売却価格が1億円以下であること。
  • 同じ被相続人(亡くなった方)の相続ですでに空家特例を利用していないこと
  • 買主要件:配偶者や直系血族など特別な関係の人に対する売却でないこと

《出典》 国税庁ホームページ「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」出典B

特例適用で失敗しやすいポイント

  • 売却期限の超過: 売却活動が想定より長引いて、売買契約の締結が期限を1日でも過ぎると適用外になります。
  • 耐震性: 特例適用には建物が一定の耐震基準を満たしていることが求められます。大幅なリフォームや増改築を行っても、耐震基準を満たさないと特例の適用対象外になるリスクがあります。

※買主が譲渡の翌年2月15日までに耐震改修し一定の耐震基準を満たすこととなった場合は適用可。

  • 建物解体の期限の超過:買主が引渡し後に建物を解体・撤去する前提で売却した場合、その解体・撤去の期限は、譲渡の翌年の2月15日までとなります。1日でも過ぎると適用外となります。

最終判断:あなたの実家は「解体」と「古家付き」どちらが有利か?

最適な売却方法は、その物件の「市場性」「売主の資金状況」で決まります。

結論 向いている状況
古家付き(現況)で売却すべき

・解体費用を自己負担したくない。
・買主候補にリフォーム業者が多いエリアである。
・既に固定資産税を上げたくないほど売却が長引いている。
・建物がまだ活用できる可能性がある。

解体して更地で売却すべき ・リフォームしても建物の再利用が難しいほど老朽化している
・確実に短期間で売却を完了させたい。
・解体費用を上回る明確な価格アップの根拠がある。
・買主ターゲットが「新築を建てたい実需層」に絞られている。
・売却後の建物の瑕疵リスクを完全にゼロにしたい。

私たち「うるラボ」は、解体費用の見積もり解体後の固定資産税増加額、そして古家付きと更地の売却想定価格を比較した「手取り額シミュレーション」を実施し、お客様にとって最も利益の出る戦略をご提案いたします。

まとめ:相続不動産売却は戦略的に

相続した古い実家は、適切な知識と戦略があれば、重荷ではなく資産になります。特に、税制優遇には厳格な適用要件や期限があります。

判断を誤る前に、税理士や司法書士とも連携できる私たち不動産売却のプロにご相談ください。あなたの財産を守り、最大の利益を実現するための最善の道を共に選びましょう。

【情報の出典(参照元)】

出典A(固定資産税): 地方税法、総務省「固定資産税制度」に関する情報
出典B(空き家特例): 国税庁ホームページ「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」

中村 靖志
宅地建物取引士/既存住宅アドバイザー
中村 靖志 Nakamura Yasushi

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